アクセスエール株式会社 松尾社長へのインタビュー

インタビューの様子。スイッチが置かれたテーブルを挟んで、対面でインタビューを行いました。左手がまつお・みつはる社長、右手がITステーション幸田です。

今回はコミュニケーション機器のファイン・チャットや機器を操作するスイッチ、iOS端末とスイッチをつなぐアダプタなどの重度肢体不自由者向け機器の開発・製造・販売を行っているアクセスエール株式会社(以下「アクセスエール」)( 大阪府・茨木市)の松尾光晴社長(日本障害者コミュニケーション支援協会 代表=上部写真左)にインタビューをしましたので、その内容を紹介します。

 

幸田:アクセスエールを設立されたきっかけは何ですか。

松尾:1990年代に父親をALSで亡くしました。その当時は純国産の重度肢体不自由者向けのコミュニケーション機器はありませんでした。

 レッツ・チャットの後継、ファイン・チャット

そこで、「重度肢体不自由者向けのコミュニケーション機器を作りたい」という思いから2001年に松下電器産業株式会社(現在:パナソニック株式会社。以下、「パナソニック」)が募集していた社内ベンチャー制度に手を挙げ、2003年に採択されました。これを機に、コミュニケーション機器のレッツ・チャットを開発し、販売を始めました。全体的に事業が安定してきた2010年にふたたびパナソニックに戻り、パナソニック社内でレッツ・チャットの改良などを行っていました。しかし、時代の流れもあり、2019年7月にレッツ・チャットの販売を取りやめることになりました。

レッツ・チャットの販売中止が発表されると、問合せが相次ぎ、あっという間に在庫がなくなりました。中には直接私に連絡をされて、デモ機でもいいのでレッツ・チャットを販売してほしいとおっしゃる方もいました。「ニーズは少ないかもしれないが、消えることのない機器」だと実感しました。レッツ・チャットを必要としている人はいます。だからこそ、何とかしなければならないと思い、パナソニックを退職し、2020年にアクセスエールを設立しました。大企業では難しいことでも、私一人ならできますから。

 

幸田:現在販売されているスイッチの特徴について教えてください。

スイッチの写真

松尾:シンプルスイッチ、ハーフスイッチ、フィンガースイッチ、フットスイッチ、ロングスイッチの5種類を販売しています。
シンプルスイッチは、上面全体がスイッチになっており、手や指、足などで押せるスイッチです。こちらは、やや強い力で押すものと弱い力で押すものの2種類あります。
ハーフスイッチは、動作圧が10gとわずかな力でも操作できる薄型のスイッチで、親指と人差し指の間に挟み、親指を人差し指の方向に寄せる動作で操作することに適しています。
フィンガースイッチは、やや硬めのスイッチで、指などに震えがある方が安定して操作できるように設計されたものです。
フットスイッチは、約10cm×6cmと大きめのスイッチで、上面全体がスイッチになっているので、手や足などで押すことができます。
ロングスイッチは、約6cm×2.5cmの細長いスイッチで、指と指の間に挟んだり、手で握って使ったりすることができます。

 

幸田:これらのスイッチを開発されるにあたり、様々な工夫をされたそうですね。

松尾:スイッチの金型を作るために3Dプリンターで何百もの試作品を作りました。形、厚さ、スロープの角度などを少しずつ変えながら、最も使いやすい形状を探し出しました。また、スイッチが押されたことを肌で感じてもらうために、押したときのクリック感が伝わるようにも工夫しました。さらに力が弱いハーフスイッチでも押すことが難しい方のためにスイッチの押す力を軽くする延長のアダプタも開発しました。
20年以上にわたりコミュニケーション機器などの開発を行っているので、これまでの経験を活かしながら設計したので、より多くの方に使っていただけるスイッチができました。

 

幸田:アクセスエールでは、「ブザーライト」という商品を販売されていますが、この商品の特徴を教えてください。

ブザーライトの写真

松尾:ブザーライトは実際にスイッチや機器を購入する前に利用者がスイッチを使えるようになるための練習装置として開発しました。多くの人が最新技術を使った複雑で値段の高いものを良いものだと思われて、市町村の補助金を使ってそういった機器を購入されます。しかし、いざ導入すると使えないということが多々あります。大切なのは、どのスイッチをどのような動作で押せば一番使いやすいのか、それを確認してから導入する機器とスイッチを決めることです。
また、動作に制限があるため、スイッチを使えるようになるための練習も必要です。具体的には、下記の3つのステップで練習を行います。
① スイッチを押す・離す動作の練習
② 「1・2・3」の合図に合わせて1回または2回スイッチを押す
③ 「かきくけこ」の「こ」が聞こえたらスイッチを押す、というように目的の文字が聞こえたらスイッチを押す
上記のステップでスイッチの使い方を習得できたら、スイッチとコミュニケーション機器を購入します。これによって安定して長く機器を使うことができます。

ブザーライトの使い方についての動画はこちら

 

幸田:支援機器を使う上で適切なスイッチを合わせることが重要なのですね。

松尾:どれだけ良い機器を導入しても、使用するスイッチが使えなければ意味がありません。実は、スイッチを開発するにあたり、開発支援金を申請しましたが、「最先端の技術からは程遠い」という理由で認められませんでした。スイッチ(押すもの)は、はるか昔からあると!
国は、最先端の技術や過去になかったものにはドンドンお金を費やします。しかし、必要だから有効だからという理由では開発支援金はおりません。そのため、スイッチの開発はクラウドファンディングで資金を集めて行いました。
スイッチはただ買ったらいいというものではありません。人それぞれ、できる動作が異なりますので、その人に合わせたスイッチを提案する必要があります。しかし、スイッチを合わせたり、使い方を指導する専門的な知識を持った人が圧倒的に不足しています。スイッチの適合と使い方を指導する人がいなければどれだけよいものを作っても本当に必要としている人には届きません。スイッチはアナログですが、これを使うことによりコミュニケーションが取れるようになる人はたくさんいます。「最先端技術ではないから」「アナログだから」ではなく、本当に必要なところにお金を費やしてほしいと思っています。

 

幸田:11月中の発売を予定しているアダプタの開発もクラウドファンディングで資金を集められたと伺いました。

現在のスイッチ接続と新しいアダプタでの接続の比較写真。一体化することでシンプルな接続が可能になった。

松尾:今夏に行ったクラウドファンディングでは、Apple社のiOS端末のためのシンプルなスイッチ接続アダプタを開発しました。現在、スイッチを使ってiOS端末を操作するには、①スイッチ→②スイッチから送った信号を変換するアダプタ→③iOS端末と②のアダプタに電源を供給するアダプタ→④iOS端末と複雑に機器をつなぐ必要があります。これだけ機器をつないでいると線が絡まって断線したり、操作に不具合があっても原因の特定が難しくなったりします。
そこで、スイッチから送られた信号の変換とiOS端末の電源の供給を同時に行えるアダプタを開発することにより、(1)スイッチ→(2)スイッチ接続アダプタ→(3)iOS端末というようにスイッチとiOS端末の接続をよりシンプルにしたいと考えました。このアダプタにはUSB-C端子を付けているので、ライトニングタイプでもCタイプでもどちらのiOS端末でもケーブルを指すだけで対応できるようにしました。ほかにも入力スイッチがONで点灯するLEDもついているので、入力スイッチによるiOS端末の操作が出来なくなった際にも原因の特定がしやすいように工夫しています。
導入費用が抑えられ、自分で問題の特定と解決ができて、そもそもトラブルも少ない、接続も簡単で分かりやすい、いいこと尽くしのアダプタです。

 

幸田:現在開発中のファインチャット for iPadの主な機能と特徴について教えてください。

松尾:従来のファインチャットの機能と同じく、コミュニケーション機能に加え、家電リモコン操作(環境制御)などが行えます。また、iPadを使用するため、画面タッチやマウス、スイッチ、視線で操作できます。そのため、進行性の病気の方も初期段階からその時々の状態に合わせて入力方法を替えながら長く使うことができます。
ファインチャットをiPad用のアプリにするメリットとしては、APP Storeからダウンロードした瞬間から使えるうえ、使用料は月払いのサブスクリプション制なので、市町村からの補助金を使うよりも導入までのハードルが下がることです。ファインチャット for iPadの導入に市町村からの補助金を使用しないので、その分、他の機器を補助金で買うという選択肢も生まれます。
もちろん、従来型のハードタイプのファインチャットも引き続き販売しています。電子機器が得意な方はファインチャット for iPadを、そうでない方はハードタイプのファインチャットを、とそれぞれの環境に合わせて使っていただけると思います。

 

幸田:松尾社長はマニュアルにも一工夫されていると伺いました。

松尾:ファインチャットや今回発売するアダプタ本体にQRコードを付けています。このQRコードを読み込むとネット上に公開している該当機種のマニュアルが見られるようにしています。商品に同梱しているマニュアルは無くなってしまったり、支援者が探し出せなかったりします。QRコードなら、手持ちのスマートフォンですぐに確認できるので、マニュアルを探す手間が省けます。
また、弊社で発売しているスイッチ類にもスイッチの使い方や握り方などを書いたマニュアルを付けています。おそらくスイッチにマニュアルを付けている会社はあまりないと思います。
簡単に導入出来て、支援者がスムーズにサポートできる。これが大切だと思っています。

 

幸田:今後、どのような機器やアプリを開発していきたいと考えていますか。

松尾:現在、簡単に使えるスマートリモコン「リモコンエール」の環境制御機能拡張版を開発しています。円柱型のスマートリモコンをブルートゥースでiOS端末につないで操作するもので、エアコンやテレビ、照明などの家電製品をスイッチで操作できるようにするものです。アプリはファインチャット for iPadと同様に、スクリーンタッチ、マウス、スイッチ、視線で使うことができます。また、デモモードを備えているので、事前にアプリをダウンロードし、手持ちの家電製品が対応しているか、確認することができます。
環境制御装置は、「ぜいたく品」とみなされ、国の補助がありません。しかし、このスマートリモコンは一般用に発売されていたものを障がい者用に改良したため、18,000円(税抜)と比較的手の届きやすい価格になっています。
スマートリモコン「リモコンエール」の環境制御機能拡張版の動画はこちら

また、9月には、iPadやファインチャットなどを固定できるスタンド「スタンドアームスイングタイプ」を発売しました。近年増えてきた低床ベッドの下にスタンドの脚が入るように工夫したほか、固定アームが回転するなど、介助者の作業の妨げにならないよう工夫しました。
スタンドアームスイングタイプについての動画はこちら

今後は、タブレットが主流になると思うので、iOS向けのアプリなどの開発を進めていきたいと考えています。
また、それぞれの機器や道具が別々の会社から発売されていると、導入する方は戸惑い、揃えるまでに手間と時間がかかります。そこで、アプリ、アダプタ、スイッチ、固定スタンドなど必要なものをトータル的に販売し、利用者が導入しやすい環境を作っていきたいと思っています。インタビューは以上です。

インタビュー動画 

3本ある動画はMP4ファイルです。

この動画では1分あたり概ね11MBという大量のデータを使用します。通信会社との契約によっては思わぬ出費となる場合がありますので、ご注意ください。

 

①ブザーライトの使い方(MP4 2分23秒/28MB) インタビューの続きに戻る この動画をスキップ

 
意思伝達装置を使いたいという方には、まずブザーライトを使った訓練をお願いしていると語る松尾社長の動画。
スイッチの練習を積み重ねることで、スイッチが思うように動かせるようになり、そのうえで自分の思うタイミングでスイッチが押せるようになって初めて意思伝達装置が生きてくることをあつく語っています。

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※注意 この動画は1分あたり概ね11MBという大量のデータを使用します。通信会社との契約によっては思わぬ出費となる場合がありますので、ご注意ください。

 

②スマートリモコン「リモコンエール」の環境制御機能拡張版(MP4 54秒/11MB)
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スマートリモコンをブルートゥースでiOS端末につないで操作するアプリの実演をしていただきました。今回はエアコンの操作をiPhonで行いました。
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※注意 この動画は1分あたり概ね11MBという大量のデータを使用します。通信会社との契約によっては思わぬ出費となる場合がありますので、ご注意ください。

 

③スタンドアームスイングタイプについて(MP4 1分7秒/13MB)
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低床ベッドの下に脚が入るように工夫して、iPadやファインチャットなどを固定できるスタンド「スタンドアームスイングタイプ」についてどのように使用するのか、どのようにアームが回転するのかを説明いただきました。
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この記事は以上です。

 


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