今回は、大阪府ITステーションで基本講習からWord・Excelの講習を受講され、2024年4月から就労継続支援A型 シーク(以下「シーク」という)で在宅勤務をされている視覚障がいのある堤さんと堤さんを雇用されているシークの担当者にインタビューをしましたので、その内容を紹介します。
堤さんへのインタビューはZoomを使用して行いました。
堤さんは約20年前に徐々に視力が低下する目の難病、網膜色素変性症と診断されました。
前職を定年退職後、もう一度働くなら、基礎からパソコンスキルを身に着ける必要があると思い、ITステーションで学ぶことにしたそうです。
「ITステーションではいろいろなことを教えていただきました。そして、学んだことが今の仕事に生かされています。また、日本情報処理検定協会のワープロ検定や表計算検定に合格したことが自信となり、就職活動に繋がっていきました。」(堤さん)
就職活動では、視覚障がいがあるということだけで「前例がない」と門前払いされることが続き、落ち込むことも多々あったそうです。そんな中、シークと出会い、在宅で仕事ができていること、仕事をすることで社会の中での居場所があることへの歓びをかみしめながら充実した日々を送られています。
「前職では、1時間半かけて通勤していました。会社に行くだけで疲れ切ってしまっていたので、在宅での仕事は仕事に集中でき、私にとっては最適な勤務環境です。」(堤さん)
営業代行の仕事では、所定のフォームに入力した後、ロボットではないことを証明するために、画面上に表示される文字を入力するよう求められることがあります。そんな時は、遠隔でボランティアさんにサポートを依頼できるスマートフォン向けアプリ「Be My Eyes」を使って画面の情報を読み上げてもらい、作業を進められているそうです。
「遠隔サポートなので、常に画像認証を突破できるわけではありません。しかし、見えないからできないではなく、自分にできる方法があるのなら、それを試してみる必要があります。やらずにできないより、やってできない方があきらめがつきますよね。それに、ボランティアさんの中には『仕事頑張ってくださいね!』とねぎらいの言葉をかけてくださる方もいます。その一言が本当にうれしくて。たとえうまくいかなくても、また頑張ろうって思えるんです。」と堤さん。
その声から堤さんの仕事に対する熱い思いが伝わってきます。
堤さんが勤められている就労継続支援A型 シークを訪ね(大阪市北区)、インタビューしました。
シークでは、様々な障がいのある方が働けるように、通所で行う軽作業、マンションの掃除などの施設外作業に加え、福祉事業所では珍しい在宅勤務を取り入れています。在宅勤務では、主にデータ入力、リサーチ作業、営業代行、SNS用の記事作成などを行い、現在利用者の5割強の方が在宅勤務をされています。
担当者によると、「在宅勤務を取り入れることで、施設として受け入れられる障がいの幅も広がります。在宅勤務を取り入れていなければ、視覚障がいのある堤さんと出会えなかったと思います。堤さんと共に働くことで、職員も多くのことを学んでいます。例えば、見えていると便利な業務管理アプリが音声では読み上げられないということを初めて知りました。しかし、アプリが使えないから業務ができないわけではありません。堤さんが作業内容をデータ入力することで問題なく作業を進めることができています。」とのことです。
また、在宅で勤務されている方の勤務状況や仕事上の課題などを正確に把握するため、勤務開始時と終了時に職員から利用者に電話をかけ、利用者の体調や仕事の課題などを細かく確認するようにしているそうです。ほかにも週1回の電話面談、月1回の来所面談を通して、利用者の困りごとや業務の進捗状況、課題などを聞き取り、一人ひとりに合わせたきめ細やかな支援をされています。
「勤務中に分からないことや困ったことがあれば、気軽に連絡していただける環境を作っています。また、トラブルがあれば、随時解決できるようにサポートしています。在宅で勤務されている方の様子が分からないだけにきめ細やかにコミュニケーションを取り、状況を把握するように努めています。」と担当者。
現在、堤さんは、営業代行業務とSNS用の記事の作成業務を行っています。営業代行業務では、Excelに書かれた営業先の一覧を参照しながら、指定されたホームページに必要事項を入力し、送信します。SNS用の記事の作成では、該当ページを熟読し、依頼主の趣旨に沿って記事を書きます。どちらもITスキルと正確な作業が求められる仕事です。
「特にメールでいただいた問い合わせについては、すぐに返信するようにしています。これは(以前の)会社の先輩に『どんな返事でもいいので、まずは自分がメールを受け取ったことを相手に伝えないと不安になる』と指摘をいただき、それ以来ずっと続けていることです。お互いに顔が見えない環境にいるからこそ、しっかりとコミュニケーションを取ることが大切だと思っています。」と堤さん。
在宅勤務は、業務を依頼する側、請け負う側、双方の信頼関係があって成り立つものだと思います。お互いにしっかりとコミュニケーションを取り、ホウ・レン・ソウ(報連相=報告・連絡・相談)をきっちりと行うことで円滑に業務が進められます。
シークのように利用者のプライバシーに配慮しながらそれぞれの環境・ニーズをしっかりと把握し、一人でも多くの方が社会で活躍できる場が広がっていくことを願っています。