[2025年1月配信]
今回は、盲ろう者(視覚と聴覚の両方に障がいのある方)向けデバイスの開発を手がけている株式会社Ubitone(ユビトン。以下「Ubitone」という)の代表取締役 山蔦栄太郎(やまつた・えいたろう)氏にインタビューをしましたので、その内容を紹介します。
山蔦代表は、アメリカで行われていた技術者を対象としたツアーに参加し、様々な企業や団体の取り組みを見学されました。
その中で、オーディオブックを体験した際、一緒にツアーに参加されている方が「私の友人は盲ろうだから本を読み上げられても聞こえないから読めないんだよね」と話されたことで
「盲ろう者」という視覚と聴覚の両方に障がいがある方がいることを知り、衝撃を受け、盲ろう者に情報を伝える機器の開発に取り組まれるようになりました。
「目の見えない・見えにくい『視覚障がい』、耳の聞こえない・聞こえにくい『聴覚障がい』があることは知っていましたが、恥ずかしながら視覚と聴覚の両方に障がいがある人がいらっしゃることを知りませんでした。
頭をガツンと打たれ、技術者として盲ろう者の方に何かできないかという思いに駆られ、盲ろう者向け情報機器の開発に乗り出しました。」(山蔦代表)
現在Ubitoneでは、グローブ型の指点字(点字の6つの点を左右の3本ずつの指、計6本の指で表して会話する手段)用デバイス「Ubitoneグラブ」、
カレンダー・ニュース・チャットなどの情報を伝えるスマートフォン向けアプリ「Ubitoneアプリ」、
体温・体重・血圧などが管理できるスマートフォン向けアプリ「Ubitoneヘルスウォッチ」、
スマートフォンに表示された内容を点字で表示する「Ubitoneポケットブレイル」、
点字ブロックに埋め込まれたタグを読み取って道案内をする「Ubitoneフットナビ」
などの開発をしています。
指点字用デバイスUbitoneグラブは、指点字を読み書きする機器です。
機器を左右の手に装着し、指に振動を与えることで指点字を出力するほか、指の動きを読み取って点字で文字を入力することもできます。
スマートフォンにUbitoneアプリをインストールし、盲ろう者のUbitoneグラブと接続することで、
指点字がわからない方もアプリを通じて盲ろう者と直接コミュニケーションを取ることができます。
通訳・介助者を通じて会話することが多い盲ろう者にとって、相手と直接会話ができることは他人に話している内容を知られることがないなど、大きな意味があります。
また、Ubitoneアプリはチャットやカレンダー、ニュースなどの情報を閲覧できるように設計されているため、情報収集が困難な盲ろう者も簡単に必要な情報を手に入れられるほか、
支援者や友人などと自由にコミュニケーションがとれるように設計されています。
「盲ろう者や視覚障がい者に機器を使っていただき、使い勝手や要望などを聞きながら開発を進めています。
私たちが使うわけではないので、当事者の意見をしっかりと聴かないと実際に使っていただける良いものはできないと思っています。
Ubitoneグラブの機器の形や指の動きの認識度など、苦労はまだまだ尽きません。」(山蔦代表)
私も実際にUbitoneグラブをはめ、Ubitoneアプリを使用してみました。
アプリは縦4行、横2列の8個のマスで区切られており、それぞれのマスに1~8の番号と共に、「チャット」「カレンダー」「ニュース」などのメニューが割り当てられています。
画面タッチでの操作のほか、Ubitoneグラブから項目に該当する番号を入力することでアプリのメニューを開くことができます。
メニューが開くと音声と共にUbitoneグラブを通じて指点字で内容が伝えられるようになっています。
私は指点字の読み取りが苦手なので、内容を理解することに時間がかかりましたが、慣れると比較的早く読み取れそうです。
私のように指点字が苦手な方には、アプリに表示されている内容を点字で表示するUbitoneポケットブレイルがあります。
こちらは、洋服のポケットに入る大きさになるように現在小型化に向けて開発を進められているそうです。
この機器の特徴は、スマートフォンの画面に表示された内容の通知とスマートフォンの操作に限定しているため、
デバイス本体に記憶媒体がないことから、軽く持ち運びに便利な大きさに設計されていることです。
さて、コロナ禍で頻繁に求められるようになったのが、体温の測定です。
音声で体温を読み上げる音声体温計はありますが、音が聞こえない・聞こえにくい盲ろう者には使えません。
そこで、測定した体温をスマートフォンに転送すると、振動で体温を知らせることができるUbitoneヘルスウォッチアプリの開発に取り組まれています。
スマートフォンの画面を上下に4分割し、それぞれの画面に触れると、指定されたパターンでスマートフォンが振動するように設計されています。
上4分の1が10の位、2番目の4分の1が1の位、3番目の4分の1が小数点第1位、最後の4分の1は移動画面になっており、 測定結果画面と履歴画面で異なります。
測定画面では、左右に分かれており、左が「戻るボタン」で右が「履歴ボタン」です。
履歴画面では、「戻るボタン」のみが表示されています。
振動パターンは、1~4の値は短い振動が1~4回、5は長い振動が1回、6以上は5の長い振動と1~4の短い振動の組み合わせで知らせます。
私もスマートフォンの画面をなぞって体験してみましたが、振動パターンがはっきりしているので、分かりやすかったです。
同じ要領でそれぞれの機器から転送すれば、血圧や体重も知ることができるそうです。
また、UbitoneグラブやUbitoneポケットブレイルと接続するとそれぞれのデバイスからも計測データが通知されるように設計されているそうです。
体温・体重・血圧などは他人に知られたくない情報の上位に入るものです。
これらの情報が一人で確認できる点に魅力を感じました。
コミュニケーション支援デバイス以外では、道案内をする機器フットナビの開発にも取り組まれています。
これは、足に装着した機器が受信機となり、点字ブロックや建物の床に埋め込まれているタグを読み取ることでスマートフォンに情報を伝え、
スマートフォンから流れる音声やUbitoneグラブ、Ubitoneポケットブレイルから地図情報を得るものです。
現在開発途中とのことですが、駅構内やショッピングモール、展示会会場などでの利用を想定しているそうです。
「コンビニ内での特定の商品売り場への案内、美術館内での移動と展示品の案内、建物内での部屋の入り口の案内など、GPSでは得られない建物内や地下での移動のサポートができればと思っています。
機器の小型化やタグの正常な読み取り機能などまだまだ解決すべき課題はありますが、公共の場での実証実験などを通じ、実用化を目指していきたいと思っています。
人手不足と言われる今の時代、人手を補える機器やシステムができればと思っています。」(山蔦代表)
Ubitoneは今年開かれる大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンの株式会社池田泉州銀行の「みんなで描こう、誰もが暮らしやすい社会 ~未来の生き方・働き方~」のブースに、
6月3日(火曜)から6月9日(月曜)までの7日間出展される予定です。
「今回の万博のテーマが『命輝く未来社会のデザイン』です。
また、今回出展するブースでは『みんなで描こう、誰もが暮らしやすい社会 ~未来の生き方・働き方~』とうたっていますが、
実際は目が見える・耳が聞こえるなど、健常者にしか開かれていないのではないかという思いがあります。
Ubitoneのブースの展示を通して、障がいなどを理由に 取り残されている人たちがいることを知っていただき、
そのうえで誰一人取り残されない社会を作るにはどうすればよいのか考えるきっかけにしてもらえればと思っています。
また、盲ろう者向けデバイスという今までにないものを開発していることを多くの人に知っていただき、今後の機器の開発の糧にしたいと思っています。」(山蔦代表)
Ubitoneで開発されている機器はまだまだ発展途上ではありますが、
盲ろう者にとってはこれらの機器があることで、私たちが普段当たり前にしているように誰とでもコミュニケーションが取れたり、簡単に欲しい情報が収集できるようになったりします。
これにより、盲ろう者の生活の質が大いに向上します。
この「当たり前のこと」が盲ろう者もできるよう、皆さんのご理解と応援をお願いします。
そして、ご興味のある方はぜひ大阪・関西万博でUbitoneのブースを訪れ、これらの機器を体験してみてください。
きっと新しい「気づき」があると思いますよ。
今回もインタビュー風景を紹介しています。ご興味のある方は下記URLをご参照ください。
http://www.itsapoot.jp/mailmaga/interview202501.html