ITステーションション修了者インタビュー

――在宅勤務で新たな一歩を ――

[2024年11月配信]

今回は、大阪府ITステーションで基本講習からWord・Excelの講習を受講され、2024年4月から就労継続支援A型「シーク」(以下「シーク」)で在宅勤務をされている視覚障がいのある堤さんと堤さんを雇用されているシークの担当者にインタビューをしましたので、その内容を紹介します。

 

2020年の新型コロナの流行を受け、当時通所されていた利用者が外出することなく働けるようにと在宅勤務を取り入れたそうです。
担当者によると、「コロナは5類に移行しましたが、様々な理由から通所が困難な方もいらっしゃいます。その方々にも社会とつながり、社会貢献をしているということを感じてもらえればと思い、在宅勤務を導入し続けています。
また、在宅勤務を取り入れることで、施設として受け入れられる障がいの幅も広がります。
在宅勤務を取り入れていなければ、視覚障がいのある堤さんと出会えなかったと思います。堤さんと共に働くことで、職員も多くのことを学んでいます。例えば、見えていると便利な業務管理アプリが音声では読み上げられないということを初めて知りました。しかし、アプリが使えないから業務ができないわけではありません。堤さんが手動で行った作業内容をデータ入力することで問題なく作業を進めることができています。」とのことです。

 

現在、堤さんは、営業代行業務とSNS用の記事の作成業務を行っています。
営業代行業務では、Excelに書かれた営業先の一覧を参照しながら、指定されたホームページに必要事項を入力し、送信します。SNS用の記事の作成では、該当ページを熟読し、依頼主の趣旨に沿って記事を書きます。
どちらもITスキルと正確な作業が求められる仕事です。

 

堤さんは約20年前に徐々に視力が低下する目の難病、網膜色素変性症と診断されました。当時は見えなくなることへの不安や家族を養わなければならないというプレッシャーから気持ちが不安定になり、辛い日々を過ごされました。そんな中、「そんなこと言うていても前に進まへんやん。これからどうするか考えな!」という周囲の方々からの言葉を受け、少しずつ気持ちを切り替えていったそうです。
「病気を会社に打ち明けると首を切られると思っていましたので、見えにくい中、必死に他の人と同じようにふるまって仕事をしていました。冷静になれば、正直に病気のことを話し、今できることをやるしかないということが分かりました。気持ちを整理することが非常に難しかったです。」(堤さん)

 

弱視のころは、それまでの営業で培った知識と経験を活かし、営業向けの販売企画の提案や仕入れ先との商談などの内勤業務を、視力の低下が進んでからは、総務で公用車の運行管理・購入計画・車検管理などの業務を行い、定年まで働かれました。
堤さんが当時を振り返り、話してくださいました。
「会社に同じ視覚障がいのある社員がいませんでしたので、音声パソコンの使い方は独学で学び、何とか仕事をこなしていました。分からないこともたくさんあり、周囲の人に作業を手伝ってもらうことも多々ありました。次からは自分でできるようにと、操作方法を尋ねても、見えている人はマウスを使って操作するので、教えてもらえませんでした。同じことを何度も尋ねて助けてもらうという、ありがたいけれど悔しい、複雑な気持ちでした。
そんな中でも定年まで働くことができたのは周囲の方々の支えがあったからです。見えにくい・見えない私に仕事を与え、最後まで働かせていただけたことに感謝しています。」

 

定年退職後、視覚障がい者の友人たちが視覚支援学校に通い、あんま・針・灸の資格を取り、社会で活躍していることに刺激を受け、自分ももう一度働こうと思われたそうです。
「もう一度働くなら、基礎からパソコンスキルを身に着ける必要があると思い、ITステーションで学ぶことにしました。ITステーションではいろいろなことを教えていただきました。そして、学んだことが今の仕事に生かされています。また、日本情報処理検定協会のワープロ検定や表計算検定に合格したことが自信となり、就職活動に繋がっていきました。」と堤さん。

 

営業代行の仕事では、所定のフォームに入力した後、ロボットではないことを証明するために、画面上に表示される文字を入力するよう求められることがあります。そんな時は、遠隔でボランティアさんにサポートを依頼できるスマートフォン向けアプリ「Be My Eyes」を使って画面の情報を読み上げてもらい、作業を進められているそうです。「遠隔サポートなので、常に画像認証を突破できるわけではありません。しかし、見えないからできないではなく、自分にできる方法があるのなら、それを試してみる必要があります。やらずにできないより、やってできない方があきらめがつきますよね。
それに、ボランティアさんの中には『仕事頑張ってくださいね!』とねぎらいの言葉をかけてくださる方もいます。その一言が本当にうれしくて。たとえうまくいかなくても、また頑張ろうって思えるんです。」と堤さん。その声から堤さんの仕事に対する熱い思いが伝わってきます。

 

シークでは、在宅で勤務されている方の勤務状況や仕事上の課題などを正確に把握するため、勤務開始時と終了時に職員から利用者に電話をかけ、利用者の体調や仕事の課題などを細かく確認するようにしているそうです。
また週1回の電話面談、月1回の来所での面談を通して、利用者の困りごとや業務の進捗状況、課題などを聞き取り、一人一人に合わせたきめ細やかな支援をされています。
「勤務中に分からないことや困ったことがあれば、気軽に連絡していただける環境を作っています。また、トラブルがあれば、随時解決できるようにサポートしています。在宅で勤務されている方の様子が分からないだけにきめ細やかにコミュニケーションを取り、状況を把握するように努めています。」と担当者。

 

在宅勤務をするには、自己管理が欠かせません。堤さんは仕事に集中し過ぎて時間を忘れないように、タイマーをセットし、定期的に休憩を取って、効率よく業務が進められるように時間管理をしながら仕事をしているそうです。また仕事上で問題や不明点があれば、メールと電話で連絡するなど、自ら積極的にコミュニケーションを取るように努められています。
「特にメールでいただいた問い合わせについては、すぐに返信するようにしています。これは以前の会社の先輩に『どんな返事でもいいのでまずは自分がメールを受け取ったことを相手に伝えないと不安になる』と指摘をいただき、それ以来ずっと続けていることです。お互いに顔が見えない環境にいるからこそ、しっかりとコミュケーションを取ることが大切だと思っています。」と堤さん。

 

在宅勤務は、業務を依頼する側、請け負う側、双方の信頼関係があって成り立つものだと思います。お互いにしっかりとコミュニケーションを取り、ホウ・レン・ソウ(報連相=報告・連絡・相談)をきっちりと行うことで円滑に業務が進められます。
お互いに信頼関係を築き、自己管理を徹底し、自立して業務を行うなど、在宅勤務を行うには幅広い能力が求められます。しかし、様々な理由から家から出られない人への就労手段としては、有効です。シークのように利用者のプライバシーに配慮しながらそれぞれの環境・ニーズをしっかりと把握し、一人一人の勤務状態を管理することは容易ではありませんが、 このように一人でも多くの方が社会で活躍できる場が広がっていくことを願っています。

 

今回もインタビュー風景を紹介しています。ご興味のある方は下記URLをご参照ください。
http://www.itsapoot.jp/mailmaga/interview202412.html

 


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