分身ロボット「OriHime」と共に働いて

[2024年09月配信]

皆さんは分身ロボット「OriHime」(以下「オリヒメ」)をご存じですか。
オリヒメは、遠隔で操作できる分身ロボットです。操作する人の指示に従い、手や首を動かすことができ、操作している人の声をスピーカーから流すことができます。また、オリヒメを操作している人(パイロット)はオリヒメが設置されている場所の映像を同時に見ることができるほか、オリヒメの周辺にいる人の声も聞くことができます。これにより、オリヒメを操作している人も現場にいる人も共に空間を共有することができます。
 

そのため重度障がい者が自宅に居ながらオリヒメを使って接客するなど、オリヒメを使った新たな働き方が広がりつつあります。
今回は、2019年に日本で初めてオリヒメのパイロットを雇用した共和メディカル株式会社の協力の下、オリヒメを用いた重度障がい者の就労事例について取材しました。

 

「社長が2016年にオリヒメを開発しているオリィ研究所の吉藤オリィ氏の講演を聞き『障害があっても働ける職場』という吉藤氏の理念に共感し、当社でオリヒメを導入することになりました。」(担当者)
 

現在、共和メディカル株式会社が経営するケーキとお菓子のお店モグ(和歌山県和歌山市)で、脊髄損傷で首から下が全く動かせない山﨑(やまさき)さんがオリヒメパイロットとして働いています。山﨑さんは手足が動かせないため、スティック状の機器を口にくわえてオリヒメを操作しています。
尚、今回は取材の都合上、以前働いていた同じく共和メディカル株式会社が運営するpatisserie natura(パティスリー ナトゥーラ、以下「ナトゥーラ」、大阪府大阪市)で取材をさせていただきました。
 

ナトゥーラはチーズ好きのパティシエがこだわって作る「チーズ好きが作ったチーズケーキ」を初め、王道のケーキやオーダーメイドのデコレーションケーキ、糖質オフやグルテンフリー(小麦粉不使用)のケーキ、焼き菓子などを販売しています。

 

さっそく、山﨑さんに接客してもらいながらケーキを買いました。
 

「いらっしゃいませ!」お店に入ると店長のさわやかな声と共に優しい山﨑さんの声も聞こえてきました。
ケーキを陳列しているショーケースの上に高さ25センチほどのかわいらしいオリヒメがチョコンとすわっています。
ケーキの種類や値段、お勧めの商品について尋ねたところ、山﨑さんが丁寧に教えてくれました。タイムラグがほとんどなく、遠隔で会話をしていることを感じませんでした。
 

おいしそうなケーキがたくさん。迷いましたが、山﨑さんお勧めのチーズケーキ3種と私の大好きなタルト3種を買いました。
「レジ袋はいりますか。」「保冷材はいりますか。」店長が会計の準備をしている間に山﨑さんが尋ねてくれました。見事な連携プレイです。
また、店長がケーキを箱詰めしている間、山﨑さんとお天気やオリンピックの話をしながらゆっくりと待つことができました。おかげで待ち時間があっという間に過ぎていき、「待つこと」に対する退屈感がありませんでした。これもオリヒメを通しての接客ならではだと思いました。
 

山﨑さんとオリヒメの出会いは、脊髄を損傷して4年がたったころ。
仕事を探している中で、たまたまX(旧ツイッター)でオリィ研究所の吉藤氏の「分身ロボットカフェのパイロット募集」の案内を見つけたことでした。
 

「けがをする前は接客業をしていました。もう一度接客ができるのかなと思い、応募しました。ロボットを使っての接客がどのようなものなのかよくわかりませんでしたが、実際に操作してみると、以前に接客していた時と感覚が似ていて、とても新鮮でした。オリヒメを通してお客様と話して、盛り上がって。『接客しているなぁ』と感じました。」と山﨑さん。
 

分身ロボットカフェで働いていた2019年、共和メディカル株式会社の社長から声をかけられ、オリヒメを使って1日1時間・週2日ほど働かれるようになったそうです。
「ケーキ屋さんで働くようになり、お客様との会話のきっかけづくりのために、お店のある関西や自分が住んでいる島根のニュースを積極的にチェックするようになりました。また、スイーツの情報も収集しています。」(山﨑さん)
 

オリヒメの認知度がまだまだ低いため、お客様の中にはオリヒメをAIロボットだと勘違いされる方もいるそうです。
「導入時はオンライン接客など、ほぼなかったので、AIロボットだと勘違いする人が多く、会話に繋がらないこともありました。コロナ禍でオンラインで会話することが普通になり、以前より受け入れられやすくなったように思います。」(担当者)
 

山﨑さんもAIロボットではなく、遠隔で生身の人間が操作していることを伝えるために「島根県から遠隔で操作しています。」と伝えるなど工夫をされています。
取材中もお客様がオリヒメから流れる声を聞いて驚かれていました。
「島根県から遠隔操作しています。見た目は可愛らしいロボットですが、中身はおっさんです!(笑)」と話しかけるとお客様も笑顔になり、会話が弾んでいました。

 

「けがをしてから約4年間、働きたくても仕事が見つかりませんでした。そんな中、オリヒメに出会い、職場に行けなくても自宅から働くことができるようになりました。オリヒメは障がいのある方だけでなく、家から出ることが難しい方など、いろいろな人の職域を広げてくれる素晴らしいものだと思っています。使う使わないはその人が決めたらいいので、まずは多くの人にオリヒメの存在を知ってもらいたいです。」(山﨑さん)

 

「オリヒメの認知度は少しずつ広がってきていますが、誰もが知っているわけではありません。そのため、お客様の反応がまだまだ薄く、無視されることも多くあります。それでも山﨑さんは前を向いて私たちと一緒に働き続けてくれています。継続は力なり!今後も当社は山﨑さんと共に働き続けていきたいと考えています。」と最後に担当者が力強く話してくださいました。

 

初めてオリヒメ越しに山﨑さんと話をしたときは少し不思議な感じを抱きました。しかし、会話を進めて行く中で、まるで山﨑さんも同じ空間に一緒にいるような気持ちになりました。これがオリヒメの持つ力です。
 

パイロットは現場にいないので、現場の状況が分かりづらいこともあります。
そんな時は、共に働く仲間が温かく声でサポートしてくれることと思います。
実際、山﨑さんにケーキの種類を教えていただいている際にも、本日のタルトなど山﨑さんが知らない情報をお店にいる店員さんが教えてくれました。
このようにオリヒメのパイロットと現場にいる人とが連携することで、新たな働き方が生まれるのだと思います。

 

ICT機器の発展により、様々な形で自宅に居ながら働くことができるようになった今の時代。オリヒメを使ってより多くの人が社会で活躍できるようになればと願っています。

 

【参考】

今今回もオリヒメと会話しながらお買い物をする様子を動画にまとめました。
ご興味のある方は、下記URLにアクセスしてご覧ください。

http://www.itsapoot.jp/mailmaga/orihimeatshop.html

 

【関連サイト】

共和メディカルグループ

https://kyowa-gr.jp/

 

Patisserie Natura

https://www.natura-natura.jp/

 

分身ロボット「OriHime」

https://orihime.orylab.com/

 


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