[2024年07月配信]
今回は、株式会社コネクトドットのNFC(近距離無線通信)タグを使った物識別アプリ「Tag of Things ものタグアプリ」(以下「ものタグ」)の機能と開発者の星野寛社長へのインタビューを紹介します。
星野社長のあつい思いは、ITステーションのホームページにたっぷりと掲載していますので、ぜひお読みください!
前編では、ものタグアプリの特徴について紹介します。
後編(来月号)では、ものタグアプリのサポーター機能と星野社長の思いを紹介します。
株式会社コネクトドットは、情報システムの企画・構築・運用などの請負業務(システム インテグレーター(SI))を主な業務としている会社です。
ものタグは2024年3月に総務省の「情報アクセシビリティ好事例2023」に認定され、今注目されているアプリの一つです。
ものタグは、衣服のデザインを確認する「ファッション コーディネートアプリ」から派生し、いろいろな機能を付加することで、少ないタグスキャンで膨大な情報から目的に到達できる仕組みに発展し、有機的な情報発信にも対応する情報管理ツールになったそうです。
アプリを起動すると、縦1列にメニューが並んでおり、上から順番に項目をたどっていくと各メニューが読み上げられるようになっています。
「アプリを設計するにあたり、視覚障がい者が平らなスマートフォンの画面上で迷子にならないように気を付けてほしい」という意見を元に画面のレイアウトを考えられ、このように1行に1項目ずつ1列にメニューを並べる形式にされたそうです。
メニューには、「スキャン開始ボタン」「ちょい録ボタン」「タグ登録・編集・複製・削除ボタン」「その他のメニューボタン」「ものタグサポーター」の5つのメニューが並んでいます。
星野社長によると、ものタグのメインの機能は、専用のNFCタグ(シールタイプ、衣類取り付け用、クリップ形式などの物理的なタグ)やスマートフォンなどで使用できる仮想タグ(電子上のタグ(情報識別点))に情報を登録し、物を識別することです。そのうえで、視覚障がい者が使いやすいように、また、正確に情報が取れるように、様々な工夫がなされているそうです。
NFCタグや仮想タグには、音声、テキスト(文字)、画像を使って情報を登録できるほか、登録した情報をより有効に使うために、「セキュリティ」「読み仮名」「アクション」「階層とリンク」という機能が組み込まれています。これらの機能を活用することで、ものタグがより便利に使えるようになったとのことで、星野社長にその機能を教えていただきました。
「アプリを作成するにあたり、一番に考えたことは、セキュリティです。タグに登録されている情報を誰でも簡単に書き換えられるような仕組みにしてしまうと、誤った情報が登録される恐れがあり、事故につながることもあります。そこで、FCSコードというユーザーを管理するコードを作り、誰がどのタグに何の情報を登録したのかということを管理する仕組みを作りました。
また、タグには個人情報が含まれることもあるので、ユーザー自身が『自分のスマートフォンだけでしかタグに登録された内容を読むことができない』『他のスマートフォンでもタグに登録した内容を読むことができる』など個々のタグにセキュリティーレベルを設定し、公開範囲を決められるように設計しました。
最もセキュリティの高い『完全私的』では、登録したタグの情報は使用しているスマートフォン内にのみ保存され、災害時のようにインターネットにつながらない状況でも、タグの情報を閲覧できるようにしています。
このように情報をきちんと管理しないと、皆さんに安心して使ってもらえないと思い、これらの機能はアプリ公開当初から組み込んでいます。」(星野社長)
続いて、「読み仮名」についてです。
これは、タグに登録されたテキスト情報を音声読み上げ機能でも正確に読み上げられるように読みを登録する機能です。
例えば、大阪府ITステーションがある大阪市天王寺区の「上汐(うえしお)」は「あげしお」と音声で読み上げられます。なんだか、揚げせんべいみたいですね。そこで、「うえしお」と読み仮名を登録すると、正しく「うえしお」と読み上げられるようになります。
星野社長によると、ひらがなやカタカナで読み仮名を登録すると読みが平たんになり、正しいアクセントで読み上げられない場合は、読み仮名に全く違う漢字を割りあてることで正しい読み、正しいアクセントで読み上げられるように工夫することができるそうです。
「ホームページでは『読み仮名を付ける』や『読み上げる』などの機能が付けられているものがありますが、情報の登録や変更のたびに制作会社に変更依頼をする必要があります。また、音声読み上げソフトにも個々の漢字の読みを登録できる機能がありますが、文面や語句によって漢字の読み方も変わってきます。
そこで、ものタグでは利用者が自分で簡単に読み仮名を登録できるような仕組みを取り入れました。この機能は、ある視覚支援学校の先生から人体模型の各部にものタグを取り付けるので、各部の名称が正しく読み上げられるように読み仮名を登録したいと要望をいただき、取り入れたものです。
この読み仮名機能を使うことにより、音声で聞いている人は正しい読みで聞くことができ、画面を見ている人は正しい表記で文字を見ることができます。見えている人は正しい表記で文字を読む、聞いている人は正しい読みで文字を聞く。これをきちんとしておかないと正確な情報を届けることができないのです。これがものタグの特徴の一つだと思っています。」(星野社長)
3つ目が、「アクション」についてです。
「アクション」とは、項目を実行すると、指定した操作が行われる機能のことです。ものタグでは、下記の5つのアクションが実行できます。
① 電話番号をタップして、電話をかける
② メールアドレスをタップして、メール作成画面を開く
③ ホームページアドレスをタップして、ホームページを開く
④ タグIDをタップして、特定のタグ情報を閲覧する(他の人や組織が持っているタグのIDを知っておく必要がある)
⑤ My時刻表をタップして、ものタグ内に登録されている時刻表を開く(別途「ものタグSO」アプリが必要、現在は、愛知県小牧市にある「小牧駅から小牧市民病院行き」のバスの時刻表のみ利用可能)
上記④と⑤については利用条件が限定されますが、①から③については様々な用途で利用できます。
例えば、購入した服のデザインは音声で登録し、ブランド名や購入店の電話番号、ブランドのホームページアドレスなどはテキストで登録しておくと、必要なときに簡単に店舗に問合せができたり、商品情報を確認できたりします。
最後に「階層とリンク」について紹介します。
「階層」とは、一つのタグを「親タグ」とし、その「親タグ」の中に「子タグ」、「子タグ」の中に「孫タグ」と複数の世代を作ってタグを登録し、管理できる構造のことです。これにより、1つの事柄からいくつもの情報を束ねることができ、体系的に整理が出来ます。
例えば、10枚のCDがあるとし、一番外側のケースに「親タグ」を貼り、各CDのタイトルを登録します。その「親タグ」の下に「子タグ」を10枚作り、各タグに各CDのタイトルを登録します。また各CD名の下に「孫タグ」を作り、各曲の作曲者名や歌詞などの曲にまつわる項目を登録します。
このように縦に段階を付けた階層構造を利用することで、目的の項目をスムーズに選択できるようになります。
これに対して、「リンク」は異なる複数のタグの情報をつないだり、自分が持っているタグに他のユーザーが持っているタグの情報などを繋いだりする機能です。
主に「ものタグサポーター」で使われています。
例えば、ものタグサポーターの中に入り、「こまき視覚障がい者の会」、「視覚障がい者のための・ものタグ「アテンド ナビ」の順にメニューを選択すると、「12.こまき巡回バス「こまくる」」というタグ名があります。
これは巡回バスのアカウントでつくったバスの時刻表であり、「こまき視覚障がい者の会」のアカウントで作成したものではありません。
それに仮想タグを組み合わせることで膨大な情報をたくさんの物理タグを有することなく、取り出せるようになりました。
このように様々な機能があるものタグですが、NFCタグや仮想タグを使って他にも多くのことができます。
NFCタグを使った例では、神経衰弱ゲームがあります。これは4×4の16個のマスが用意された板に専用のNFCタグを並べ、タグに登録された情報を音声や文字で確認しながら行うゲームです。
ゲームのコンテンツは趣味の内容から学習内容まで様々な種類が用意されています。
仮想タグを使った例では、スケジュール帳やものタグサポーター(視覚障がい者に関する情報の発信)があります。こちらについては後編でご紹介します。
今回は、ものタグアプリについて紹介しました。
次回は、ものタグアプリのサポーター機能と星野社長の思いを紹介します。
お楽しみに!
[2024年08月配信]
今回は、先月号に続き、株式会社コネクトドットのNFC(近距離無線通信)タグを使った物識別アプリ「Tag of Things ものタグアプリ」(以下「ものタグ」)の機能と開発者の星野寛社長へのインタビューを紹介します。
前編(先月号)では、ものタグアプリの特徴について紹介しました。
後編では、ものタグアプリのサポーター機能と星野社長の思いを紹介します。
ものタグサポーターは、ものタグアプリを開くと画面の下部に表示されています。
現在は、こまき視覚障がい者の会(愛知県・小牧市)、視覚サポートなごみ(静岡県・静岡市)、福祉機器販売サポート Heartful(ハートフル)(愛知県・名古屋市)の3つの団体の情報が登録されています。
一つ目のこまき視覚障がい者の会の項目には、大カテゴリーとして「視覚障がい者のためのものタグアテンドナビ」があり、その中に、「障害者手帳の交付と障害者年金」や「利用できる福祉サービス」「知っておきたい制度など」など視覚障がい者に関連する情報が12個のサブカテゴリーに分かれて掲載されています。
ここで注目される機能が12番目にある「こまき巡回バス『こまくる』」の時刻表です。
この時刻表の最大の特徴は、Aのバス停からBのバス停までというように、よく利用する区間の時刻表の検索ができる機能です。この機能のことを「My時刻表」と呼んでいます。(尚、「My時刻表の利用には別途「ものタグSO」アプリのインストールが必要です。)
地域によってはバスや電車などに複数の路線があり、路線により行き先が異なるため、停留所や駅によって止まるものと止まらないものがあります。ものタグの「My時刻表」では、乗車バス停と降車バス停を指定することにより、乗車バス停の出発時刻と降車バス停の到着時刻が同時に閲覧できます。
(尚、現在試験運用のため、個人で閲覧したい時刻表の区間を指定することはできません。)
現在登録されている区間は、こまき巡回バス「こまくる」の小牧駅から小牧市民病院までですが、今後は、要望のある路線から少しずつ増やしていくことも検討されているそうです。「広範囲の時刻表を提供することで、ユーザーの外出意欲が高まり、それが交通機関への収益増へと繋がり、企業がこのようなアクセスしやすい時刻表にも投資してくれることを期待しているのですが…。」と星野社長。
この時刻表は、出発時刻と到着時刻がわかるシンプルな時刻表が欲しいという要望をもとに作られたそうです。「一般的には気づきにくい、見えない・見えにくいからこそほしい機能を足して、かつシンプルに使えるものこそが求められていると思っています。」(星野社長)
二つ目の「福祉機器販売サポート Heartful」では、アクション機能をふんだんに使っているそうです。
「視覚障がい者の中には、メールなどを使ってスムーズに連絡することが難しい人もいるので、『問い合わせ』『購入』『申請書類の取り寄せ』、この3つのことが簡単にできるようにしてほしいという要望がありました。」と星野社長。
例えば、「ものタグサポーター」の中の「ハートフル福祉機器の販売・サポート」から「ロービジョン・グッズ」→「カテゴリー別」→「音声対応日用品」→「グルス音声タイマー3,300円」の順にタップします。
商品の詳細ページの下部に「役所申請書類申込メール送信ボタン」「問合せメール送信ボタン」「購入希望メール送信ボタン」の3つのメール送信ボタンと「電話での問い合わせボタン」があります。
「電話での問い合わせボタン」を実行すると、直接福祉機器販売サポート Heartfulに電話が掛けられます。
それぞれの「メール送信ボタン」を実行すると、自動的にメールアプリが起動し、メール作成画面が開きます。宛先には、福祉機器販売サポート Heartfulのメールアドレスが、件名には選択した商品名と用件(問い合わせ、購入希望、申請書類の申込)が自動的に入力されていますので、そのままメールを送信するだけで問い合わせができます。
もちろん、自分で本文に追加事項を入力してメールを送信することもできます。
「ホームページ内にボタンがあり、それを実行すればメール送信ができる機能はすでにあります。しかし、視覚障がい者の中にはホームページ内から目的のボタンを探し出すことが難しい人もいるでしょう。
そこで、ものタグでは、各商品の詳細ページの下部に問い合わせ内容に該当するメール送信ボタンを設け、簡単に連絡できるようにしています。
メールを受け取った側は、メールの差出人とタイトルから誰が、何について、何の問い合わせをしているのかがわかるので、すぐに対象者に必要な案内ができます。そうすることにより、視覚障がい者は簡単に問い合わせができる、受け取った側もすぐに対応できるという仕組みを作りました。でも、ものタグのこの機能はまだあまり知られていないようですね。」(星野社長)
最後の「視覚サポートなごみ」は、「なごみ総合カタログ(2022年12月)」と「静岡市障害福祉のしおり」が読めるようになっています。
障害福祉のしおりは、PDFで公開されていることも多いので、このように操作が簡単で、分かりやすくカテゴリー分けされ、正しい音声読み上げで読むことができる媒体で提供されていることは大変ありがたいですね。
「『物の識別ができるように』ということからものタグを作りました。しかし、タグに階層を付けることで、様々な形で活用できることが分かりました。そこで、ものタグを情報発信のツールとして使ってもらえればと思い、発展させていったという経緯があります。サポーターの機能がまさにこれです。」(星野社長)
総務省の「情報アクセシビリティ好事例2023」では、ものタグは、「視力無しまたは限られた視力での円滑なコミュニケーションや情報へのアクセスを実現」として採択されています。星野社長によると、今回の好事例に採択されるために何か特別なことをしたということはないそうです。
「今まで多くの人の意見を聞き、その都度必要な機能を追加していきました。その結果、情報発信のツールとして、障がい者向けにどのような機能があるか、どのように工夫されているかということを様式に基づいて記載したところ、たまたま用件を満たし、一般的なブラウザと比較され、採択されました。」(星野社長)
星野社長によると、ものタグを開発し、改善していく中で、常に思われていることがあるそうです。
「視覚障がい者は、情報弱者でもあります。目の前に情報があっても、情報があることすら知らなかったり、知っていても手に入れることができなかったりします。
ある市の担当者はホームページで情報を公開しているから十分に情報が行き届いていると思い込んでいたようです。
情報があふれている今の時代、誰もが情報を手に入れられて当たり前という考えが前提になっています。
わざわざ障がい者のために手に入れやすい形での情報提供のあり方を考える風潮があまりないように思います。紙の時刻表が廃止されるなど、ある意味情報提供のあり方が後退していると思っています。
スロープの設置やリフト付きのバスの導入などハード面でのバリアフリーは目に見えて結果が分かるため、具体例も挙げられていますし、予算もつきやすいんです。
一方で、ソフト面である情報提供のあり方などは、目に見えるものではなく、個人の頭の中にあるものなので、結果が見えにくく、行政も予算を付けることが難しいんだと思います。どのような形で情報を提供すれば、障がい者にも届くのか、そこはしっかりと研究していく必要があると思います。
AIを使った支援の在り方の研究においても、『健常者視点で進められ、障がい者のニーズが置き去りにされている』と危惧している人もいます。すべての人を満足させられるユニバーサルデザインのものを作ることはおそらく無理ですが、いかに多くの人に満足してもらえるようなものや情報提供のあり方を作るのか、これは永遠の課題だと思っています。」
多くの人の意見を聞き、より多くの人が使いやすいようにと改良を重ねた結果、ものタグには様々な機能が付加されていきました。星野社長の視覚障がい者に対する温かい思いが伝わってきます。
星野社長の話を聞き、より多くの人に適切なタイミングで正確な情報を届けることの重要性と情報提供のあり方について考える時期に来ていることを改めて認識しました。
ものタグは、多くの可能性を秘めていると思います。今後のものタグの発展が楽しみです。
【参考】
星野社長とのインタビュー風景の動画を掲載しています。
ご興味のある方はぜひご覧ください。
http://www.itsapoot.jp/mailmaga/interview202407.html
星野社長のものタグにかける熱い思いは下記URLよりご覧ください。
http://www.itsapoot.jp/mailmaga/interview_hoshino.html
【関連サイト】
株式会社コネクトドット
Tag of Things ものタグアプリ
http://www.connectdot.jp/mono-Tag/
ものタグアプリ(iOS版)
https://apps.apple.com/jp/app/tot-tag-of-things-/id1447521760
ものタグアプリ(Android版)
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.connectdot.totappli&hl=ja
ものタグアプリSO(iOS版)
https://apps.apple.com/jp/app/AAso/id1582122844
ものタグアプリSO(Android版)
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.connectdot.totappliSO&hl=es_MX